対談(創刊号)


 研究者と実務家が一堂に会して、ファイナンシャル・プランニングという新しい研究活動に一歩を踏み出した『日本
FP学会』。その学会誌創刊を記念して、日本FP学会特別顧問でもある、加藤寛千葉商科大学学長と牧野昇日本FP協会理
事長の対談をお届けします。テーマは大きく<日本経済の行方>。瀕死の日本経済、金融情勢に対して大胆かつパワフル
な処方箋が提示されました。



2001年を日本のFPの<教育元年>にしよう

牧野 「日本FP学会の学会誌第1号を記念した対談ということでお招きいただいたわけですが、いよいよ学会も軌道に乗り
   始めまして、加藤先生には大変お世話になりました。昨年の『FPフェア2000』と同時開催で第1回学会も開催されまして、
   おかげさまで研究者と実務家の相互刺激、融合が始まったという感を強く持ちました。」

加藤 「いやいやこちらこそ。日本のファイナンシャル・プランニングは、日本FP協会が先行して、今や会員10万人時代を迎えて
   いる訳ですが、日本のFPを株式投資を引っ張っていけるくらい、より高度なものにしたいということで、研究者と実務家が切
   磋琢磨できる学会をつくろうじゃないかという話から始まったのがFP学会でした。研究者に声をかけると、みなさん快く賛同
   してくださいました。」

牧野 「専門家の方たちが大勢集まって、ベストメンバーですね。」

加藤 「おかげさまで昨年の第1回FP学会も大成功でした。実務家の参加としては、今、FPの方で論文発表をされた200人
   ほどが会員になっていらっしゃいます。その方々の研究発表の場として、大会の他に学会誌も必要ということで、創
   刊の運びとなったわけです。創刊号ですから、お世話になった日本FP協会の理事長にまずお話をうかがおうというの
   が、今回の企画です。」

牧野 「協会も今年で13年になりますが、ほんの4,5年前、会員数は7~8000人でした。それが今では10万人を超え、 
   FPへの関心が非常に強くなったことを実感します。とくに、国際資格であるCFPが急増。今、5000人を超えています
   が、協会としても、CFPのさらなるレベルアップは急務であろうと考えています。
   また、これまで任意団体であった日本FP協会の法人化が決定いたしましたし、会報誌の『FPジャーナル』の発行と内
   容の充実、インターネットを駆使した教育セミナーの開催とデータベース化も進んでおります。FP学会とのタイアッ
   プも実現したことで、まさに2001年を、日本FP協会にとっての<教育元年>にしようと決意しています。」

研究者に現実感を与え実務家に裏付けを与える交流を


加藤 「FPの理論的水準を上げるためにも、多くのFPを指導していく責任が学会には課せられていると思います。」

牧野 「最近は銀行や大企業内のFPも増えてきましたし、裾野が広がっていますからね。」

加藤 「指導する側にはより高度な知識が必要ですから、学者の側の意識変革が大事だろうと思います。たとえばこれまで
   、研究者にとっての『金融論』は、制度や政策の議論が中心でした。これでは、実際の個人、一般消費者に役立つ理
   論にはなり得ない。そういう意味で、学者、研究者の側のレベルを上げる必要があるんですね。貝塚啓明さんという
   大物に会長に就任していただいたこともよかったですよ。学会が頑張って協会を指導していけるようにならなくては
   いけませんから。」

牧野 「実務家としてFPからの働きかけも重要ですね。」

加藤 「研究報告会などでは、学者の理論についてCFPの方々から「現実はそうならない」とか、質問や異論が噴出しまし
   てね、非常によい交流ができていますよ。」

牧野 「余談ですが、昨年、アクティブ株を買いましてね、平均株価が13800円のときに。18000円まで上がったときに
   手放したんです。株は売り時が重要でね。協会の理事長の立場ですと、儲かった話しかしないんですが(笑)。今は
   13000円ですから平均株価は5000円の値下がりです。1年で日本から数十兆円のお金が消えたことになりますね。」

加藤 「さすが、FP協会の会長さんだけあって売り時を心得ていらっしゃいますねえ(笑)。私は売り時を失して損ばか
   りしている。実務家と学者の違いですかね(笑)。」


豊かさの中の不況 赤字国債は帳消しになる?


牧野 「株価が戻らないこともそうですが、目下の課題は日本経済であるわけで。公定歩合も下げるだけ下げて、不良債権
   はちっとも減らないという状況を、加藤先生はどうご覧になりますか?」

加藤 「全体の見通しを考えるときに重要なのは、不良債権がどれほど残っているかということでしょう。これは、株価の
   上昇が大きければ自動的になくなり、株価が下がるとまた増えるということになります。アメリカはいま、3000億ド
   ルの財政黒字と言ってますが、実はこれ、日本が買っている国債とほぼ同額。日本が買っている分アメリカは景気が
   いいわけです。近頃、アメリカも不良債権が出てきましたが、日本に比べると少ない。だから、アメリカはソフトラ
   ンディングで大丈夫なんですよ。」

牧野 「日本はというと、私は「豊かさの中の不況」という言い方をしているんですが、前総理の小渕恵三さんが私にブッ
   チホンをかけてこられたことがありましてね。「牧野さんの言葉で気に入った言葉がある」と。それが「豊かさの中
   の不況」という言葉だと言われたんです。日本はODAにしても海外援助にしても世界一の援助国でしょう。アメリカ
   の1.2倍です。海外資産も世界一。失業率も4.7%とか4.8%ですが、ヨーロッパでは10%です。たまたま成長率が落
   ちたとはいえ、世界の中では豊かな国ですよ。財政赤字が650兆円もあると言われますが、1400兆の個人金融資産の
   半分も出せば埋まるわけですからね。一概に日本経済が悪いとは言えないんじゃないですかね。」

加藤 「問題は、これからどんどん赤字が増えてくるということなんですね。これも考えようで、ヨーロッパなどはマース
   トリヒト条約で、赤字はGDPの6掛けなら仕方ないと言ってるんですよ。」

牧野 「645兆なら300兆まではよいと。」

加藤 「そう、残り345兆の半分は地方債ですよ。すると、国は100兆から150兆を何とかすればよいということになる。」

牧野 「年金積み立て分を使って引いてよいというのが先生のお考えですね。」

加藤 「他の国はそうしていますからね。まあ、日本はこれから年金をもらう人が増えますから、年金積み立ては除外する
   というほうが危険性は少ないですけどね。それにしても、日本の中央政府が負担すべきは200兆を超えることはない
   でしょう。それを一発で解消できるのが、郵便貯金の250兆なんですよ。」

牧野 「国立大学を売るとか、刑務所を売るとかしてもよいわけで、1400兆の国民の貯蓄が政府に移っていく。それで解
   消ですね。」

加藤 「日本の借金は外国から借りてませんから、やりくりすれば帳消しになるんですよ。」

投資は消費と考えれば日本のFPの役割は重大


牧野 「 多額の借金があると、どうしても悲観的になりがちですが、日本の技術力を忘れてもらっては困ります。コンピ
   ュータだってバイオだって、自動車産業だって強い。そういう意味では、日本は力がある。自信を持ってもらいたい   と思うんですがね。」

加藤  「加藤寛氏本当にそうですね。それと、とにかく株価を上げることでしょう。そのためには、さっき理事長が言わ
   れた個人資産が株に回ればいいわけですよ。今、日本は消費不況と言われていますが、資産を持っている人が買う物
   がないんですね。そこで、発想を変えて、株を買うことも消費と考える。経済学の概念では投資なんですが、ケインズ
   は国民所得をC+I+G=Yと表しましたよね。C=消費、I=投資、G=政府の支出でしょ。経済成長を考えるならIを消
   費と考えて、消費促進対策をとればいいんです。物を買うと消費税が付くけれど、株には付かない。厳密には税金の問
   題はありますが、株を買って貯めたお金は免税にすると決めればいいんです。これがまさに、401kなんですね。」

牧野 「税の問題で言えば、相続税や贈与税を抑えることでも、消費促進効果がありますよ。」

加藤 「特に生前贈与ですね。年寄りは金を使わないから若い人に使ってもらう。」

牧野 「税の問題は政府もなかなか決断しない。」

加藤 「 そうですね。401kで株を買ったら免税にしろって言うんですがね、なかなか「うん」と言わない。これじゃ
   401kも普及しないですねえ。税の優遇策を実施して、株式投資を株式消費にしていく。これで株価は上がります。そ
   こで今度は、連結納税、分割納税を認める。これで、世界と同じマーケットになるわけです。」 

牧野 「やっぱり優遇税制を認めなきゃだめですな。」

加藤 「だめです(笑)。これまでは日本は銀行を介した間接金融だったわけでしょう。これからは直接金融を進め
   なきゃいかん。個人が投資を直接行って資産形成をする時代です。」

牧野 「アメリカなんかは、貯蓄ではなく、ベンチャーへの投資や株式投資が主流でしょう。それで見合うものがあるんで
   すね、貯蓄しなくとも。」

加藤 「配当があるからそれが貯蓄なんですね。そういう意味で日本はもっと株式投資=消費を奨励すべきですよ。
   ただ、個人ではなかなか難しい。だからFPが必要なんです。いままでは大蔵省が日本人のFPだった。もう名前も財
   務省に変わったんだから、ここはお引き取りいただいて、民間FPが中心になるべきですね。」

今必要なことは「不良債権解消」「特殊法人の整理」「地方分権」


牧野 「いよいよ核心に入ってきましたな。さて、日本のこれからをどうするかということですが、先生は昨年、公開の
  『産業新生会議』で提言をされていますね。」

加藤 「第2次森内閣のスタート次にね。そこでの提言は、3つありました。ひとつが、「不良債権を年内に解消する」。
   ふたつ目が「特殊法人を3年以内に整理する」。そして「地方分権を積極的に進める」という3つです。この3つをき
   ちんと宣言すれば、日本の今の問題は解決する。」

牧野 「「不良債権」の問題は株価を上げるということですな。そのためには401kの免税をやると。」

加藤 「そうです。「特殊法人」の問題は、先ほどの郵便貯金です。「郵便貯金は国が全部いただく」と言えば株は急騰します
   (笑)。それはともかく、来年ペイオフになったら、郵便局は大問題になりますよ。」

牧野 「国の銀行だから間違いないはずと、ますます安心して預ける。郵便局の公的資金が増えますね。」

加藤 「その公的資金で株に投資すると、外国からの批判が高まりますねえ。公的資金を使って株価を操作するのかってね。」

牧野 「財政投融資の問題もありますね。いまだに6%の金利をとって貸している。だから、旧国鉄の不良資産が減らない
   んだ。」

加藤 「住宅ローンでもそうでしょう。長期金利が下がっていても高いまま。特殊法人がなくなると、こうした問題はなく
   なります。だいたい、国営だから安心というのはまやかしでね。戦後には、戦争中にコツコツ貯めていた貯金はみん
   なゼロになちゃったんだから。」

牧野 「簡易保険はね、女房もいっぱい入っていて、僕が死んだらみんなもらおうと思っているらしい(笑)。どうしてそ
   んなに入るんだと聞いたら、営業活動が強力らしいですよ。まあ、郵便局のような「国営銀行」「国営保険」は世界
   にはありませんね。」

加藤 「最後が「地方分権」です。これがしっかりできれば、政府は小さくなるし、陳情に来る人もいなくなるから、東京
   の出張所もいらなくなる。ずいぶんすっきりしますよ。」

サラリーマンも確定申告 今こそ『廃県置藩』を


牧野 「税金はどういう形で納めますかねえ。」

加藤 「率の問題ではなく、徴収法を変えることですね。今やるべきなのは、すべて確定申告に変えることですよ。」

牧野 「アメリカ式ですな。」

加藤 「どうしても源泉徴収が便利でよいという人には選択権を与える。「私は確定申告に行きます」「自分は源泉徴収にしてく
   れ」と。」

牧野 「確定申告なら、自分がどれほど税金を払っているかがはっきりわかりますからね。」

加藤 「同時に、「反乱権」を認める裁判所をつくるんですよ。「払いたくない」「税金の使い方が間違っている」と思う
   人は税金分を裁判所に預けて裁判闘争をするんです。勝てば預けていたお金が戻ってくる。」 

牧野 「行政裁判所のようなシステムが必要ということですね。弁護士ももっと大量に必要になる。「地方分権」ということでは
   、県知事さんで頑張っている人も増えましたがね。」

加藤 「県知事さんもいいんですが、もはや市町村の時代なんですよ。県はもう必要ない。そして、今、3300ある市町村を合併さ
   せて、300にする。すると、だいたい30万都市になります。このくらいの規模がちょうどいいんですよ。昔の藩の大きさです
   よ。市庁舎もひとつでいいし、職員の数も大幅に減るから、お金がかからないでしょ。」

牧野 「市町村の職員のレベルをもっと上げていくことが必要になるでしょうね。」

加藤 「川崎市では市の仕事を引き受ける人を募集する広告を出したんですよ。」

牧野 「なるほど、民間にアウトソーシングするという発想もあってもよいですね。アメリカでは、刑務所も民間に任せて
   ますからね。」

加藤 「地方が工夫して、藩の財政を立て直す。たとえば、地方債を発行して日本中に音楽ホールや施設をつくりました。
   ところが、それらはいずれもちゃんと使われていないでしょ全部売れば、お金が戻ってきますよ。」

牧野 「まさに『廃県置藩』ですな。今日はたいへん勉強になりました。ありがとうございました。」

加藤 「いやいやこちらこそ。どうもありがとうございました。」